(2003年04月号)

ここに銃があります。 ある人は注意深く手に取り、またある人は何も考えず手に取ります。 その人の持っている知識や習慣で、意識して行動する場合と無意識のうちに行動した場合には、まるっきり違った結果となって現れるのです。

  - Vol.3 -


 いま思えば20年前、知人が舞台で使用する銃を貸して欲しい、というのが、プロップ屋の始まりだったと思います。当時は、プロップガンという言葉はあまり知られてなく、ステージガンと呼ばれていました。

今回は、思い出に残るプロップガンを紹介したいと思います。


 私がプロップ屋として動く場合、ほとんどが舞台です。そのためリボルバーを使用することが多いです。
というのは、まず音を大きくすることが出来るからです。
と、ともにマズルフラッシュも多く出せ、誰にでも比較的簡単に取り扱うことが出来るのです。

この誰にでも簡単に扱えるという点が非常に大切で、何かトラブルがあり発砲出来ない場合(だいたいが不発ですが)、続けて引き金を引けば次弾を撃てるという点がオートマチックより優れているからです。

役者さんの誰もが銃を扱えるとは限りません。
初めて銃を触ったという人でも、数日後には銃を持って舞台に立ちます。 舞台に立つというだけでも相当なプレッシャーがかかります。その上に小道具である銃がトラブルなど起こしたら・・・

私の仕事の中で最も重要なことは、銃の取り扱いに関してレクチャーすることです。
ここをしっかりやらないと本番中でのトラブルに対処できません。
実銃でも不発はあるのです。落ち着いてレクチャーどおりに行動すれば、よりリアルなシーンになると思います。

 私自身も役者なだけに、落ち着いて行動する難しさは十分に分かっています。
常に冷静で、臨機応変に対処する。
銃の世界もお芝居の世界も同じ要素があるのではないかと私は思います。

さて今回の本題、思い出に残るプロップガンということですが、私が悪役商会に所属してまもなく『やめられない、ギャング稼業と情婦たち』、というミュージカルに出演させてもらいました。
禁酒法時代のアメリカはシカゴ、といえば勿論ギャングものです。
そこで、我がおやじ八名扮するアントニオを付け狙う殺し屋の一人を演りました。

v3_gun1.jpg (58795 バイト)その時に使った銃が、トンプソン・サブ・マシンガンです。 ヴァーチカルグリップにドラムマガジンというイデタチは、いかにも悪そうな雰囲気をかもし出しています。
ギャングが持っているマシンガンというイメージがそう思わせるのかも知れません。
この舞台の時も当然銃撃シーンはありました。使用したトンプソンは、MGC製でCPカートをベースに少し細工をして発砲させました。もともと調子の良いCPカートなので、不発はほとんど無かったように思います。

発射音はそれほど大きく出来なかったのですが、シカゴタイプライターと呼ばれていたトンプソンの発射音(タイプライターのキーボードを叩く乾いた音)に近かったのではないかと思います。
アントニオに撃たれ、ケースをばら撒きながら死んでいくという、ギャング映画のワンシーンも舞台で再現しました。
その後の舞台上に残ったケースの処理が大変だったことも今では良い思い出です。

・・・あれから15年、あの男が帰ってきた。
少し貫禄の出た身体にトンプソンを粋に抱え、今でもアントニオを探し、夜の街をさまよい続ける。

今回の写真は、そんな男とトンプソンの凄みが表現できたのではないかと思います。

トンプソンを撃つにはやはり腰だめです。
重い銃に拳銃弾とくれば、腰だめでのコントロールは非常に楽だったと思われます。
実際、当時ギャングの中にはストックを外しコートの下に忍ばせていた者もいたようです。
精密なリア・サイトも彼らには必要なかったのかもしれませんね。

私がプロップ屋としてかかわり、6年間トンプソンを使っている舞台があります。郡司企画が制作・プロデュースしたファミリー・ミュージカルで、ずばり『GANg』という作品です。、
子供たちが力を合わせて、大人たち(ギャングたち)を改心させるというストーリーで、ギャングが持つトンプソンが効果的に使われています。

撃つシーンがあるのですが、ダンスナンバーが多いため、舞台上にケースが残ると危険なので、効果音と照明で行っています。
このほかにも拳銃が出てきますが、こちらは火薬を使って発砲させています。これらの拳銃もそのうちに紹介しますね。

もう一つ作品を紹介します。
こちらも舞台で、超シリアスなギャングものでした。 
ヨギプロダクション(株)
企画・制作の、
劇団華の章公演『The kingdom of heaven』
です。
この作品では、トンプソンを含め約20丁の銃を用意しました。しかも、そのほとんどが発砲あり、というハードな仕事でした。
役者さんたちには、銃についてレクチャーを数日間行いました。日に日に銃に慣れていく彼らを見て、役者としてのポテンシャルの高さを感じました。

舞台本番で彼らはマフィアの匂いをプンプンさせ、銃撃戦では他に類を見ないほどの迫力を見せてくれました。舞台袖から見ていた私の目に、ケースを撒き散らしながら吠え続けるトンプソンが、美しく映ったことを今でも思い出します。 プロップガンはただの小道具です。それを生かすも殺すも役者の技量で決まります。

その小道具であるプロップガンをさりげなく扱える役者が増えることを願いながら今回の記事を終わります。